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見事な羅臼昆布
 
 
日本の出汁(だし)は、鶏ガラや牛テール、豚の足や骨などを煮込んでとる洋風・中華風のスープと比べるとあまりに簡単。しかも、油脂がまったく浮かない「かつお出汁」は静謐で格調の高さを感じさせるほどです。この、シンプルでありながら、奥深いうま味は日本人の繊細な味覚を育て、どれほど日本の料理文化に貢献してきたことでしょう。
西洋料理、中国料理では味には酸味、苦味、甘味、辛味、塩味の5味があるといいますが、日本料理にはさらにもうひとつ「滋味」を加えて、6つの味があるとするのが大きな特徴です。滋味とは材料そのものからにじみ出るうま味、持ち味のこと。魚や野菜それぞれが持つ持味を引き出して活かすのが日本料理の真骨頂ですが、それに大きく貢献してきたのがほかならぬかつお出汁ではないでしょうか。
昆布色といえばいいのでしょうか
手間をかけずに簡単に優れた出汁を抽出できるその裏には、先人たちのすばらしい知恵と努力の結集があることを、今一度思い返してみましょう。
特筆すべきは昆布もかつお節も、ともに海からの贈り物だということ。海に囲まれた島国の民族の叡智が生み出した、日本ならではのユニークな産物といえます。
日本では昔から海藻を各種ミネラルの補給源として、ときには野菜にかわる栄養源として、また製塩技術などないころは塩分の補給源としても、生活に欠かせない食材でした。日本人は現在に至るまで海藻とは密接な関係をもってきましたが、実は世界的にみると海藻を食べる民族はごく稀だといいます。
そんな世界的にも珍しい食習慣を持つ私達の祖先が、昆布のうま味を知ったのはいつの頃なのでしょうか。「新日本記」に蝦夷の族長の朝廷への昆布献上の記録があるといいますが、ふだんから海藻と親しんでいた民族だからこそ、ごく自然に海藻からうま味を引き出す知恵が生まれたのでしょう。
立派な枯節
鰹の加工品であるかつお節も日本ならではの産物です。湿気が多くカビが繁殖しやすい日本には、味噌や醤油、日本酒、味醂、米酢など麹カビの働きを応用した発酵食品がたくさんありますが、かつお節も同じ仲間です。
かつお節は3枚におろした鰹を煮て冷やしてから、焙乾室で数日かけてじっくり燻して乾燥させます。こうしてできたのが「荒節」。これもかつお節として売られていますが、「荒節」は発酵食品とはいいません。
この「荒節」をさらに天火で干してから、鰹節菌と呼ばれる麹カビの一種が多数生息しているカビ付け用の室や樽に入れます。2週間でかつお節の表面はカビだらけに(一番カビ)。これを取り出して胞子を刷毛で払い落として、再びカビ付けの樽などの容器に2週間入れ、カビを密生させます(二番カビ)。同様の作業を繰り返して、三番カビ、四番カビをつけて、最後に十分に乾燥してできるのが「枯節」です。
美しいですね。削ったばかりの鰹節
こうしてかつお節は、麹カビが発酵作用をしながら節の内部にうま味成分をどんどん送り込んでいきます。
と同時に何度も何度もカビをつけることによって、カビが節の中にあった水分をぜんぶ吸い取ってしまうので、とことん乾燥します。上質の「枯節」を両手に持って拍子木のように叩くと、「カーン、カーン」と乾いた音がするのはそのためです。水分がまったくないので、雑菌などの微生物がまったく生育できず、腐らないためいつまでも保存することができます。冷蔵庫のなかった大昔からの偉大なる知恵の産物。
というわけで、正確にはかつお節は「荒節」と「枯節」の2種類があって、発酵食品である「枯節」はカビに覆われて白っぽく粉をふいたようになっています。
枯節は醗酵食品
さて、出汁のうま味の成分ですが、かつお節といえば「イノシン酸」、昆布といえば「グルタミン酸」とは誰もが知るところです。そして、おもしろいことにアミノ酸系のうま味成分であるグルタミン酸と核酸系のうま味成分のイノシン酸を合わせて使うと、うまさの相乗効果を呼んで、それぞれ単独に使用した場合の数十倍ものうま味を人間の舌が感じるというのです。
しかし、なんといってもすばらしいのは、昆布やかつお節がうま味の宝庫であることを発見したのも、それを合わせて使うとうまさの飛び上がり現象がおこるということも、グルタミン酸やイノシン酸という物質の存在が化学的に証明されるずっと以前にちゃんと理解して、食生活に取り入れていたということ。先人たちの計り知れない知恵と発想の豊かさに改めて脱帽です。
いい鰹節は最後までキレイ
かつお出汁のすぐれた点はその材料の昆布もかつお節も乾物なので、常温で保存がきいて手軽であること。だれでも簡単に安定した味が出せること。おかげで、庶民にいたるまで繊細な食生活を享受できたというわけです。
豊かな食生活とは世界中から集めた食材がデパチカに豊富に並ぶことではなく、私達の祖先が残した世界に類をみないすぐれた料理法を、子や孫に伝えていくこと。それをしないのはあまりにもモッタイナ〜イですね。
 
 
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